20120828

ヒトの血液から簡単に「体内時刻」を調べる手法が確立された

 

Takeya Kasukawa, Masahiro Sugimoto, Akiko Hida, Yoichi Minami, Masayo Mori, Sato Honma, Ken-ichi Honma, Kazuo Mishima, Tomoyoshi Soga and Hiroki R Ueda."Human blood metabolite timetable indicates internal body time." Proc Natl Acad Sci U S A, Vol.109, Issue 37, 15036-41, doi: 10.1073/pnas.1207768109. September 2012.

 

精神保健研究所・精神生理研究部の三島和夫部長、肥田昌子室長らのグループは、理化学研究所、慶應義塾大学、北海道大学と共同で、ヒトの血液から簡単に「体内時刻」を調べる手法を確立しました。本研究成果は、米国の科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences』オンライン版に8月27日の週に掲載されます。

これまではヒトの体内時計が今何時なのかを診断するには、1日~数日にわたって連続採取した血液(組織)中のホルモン濃度等を測定する必要があるなどとても大変で、実際の診療で活用することはできませんでした。本研究で開発した方法を使えば、一日わずか2回採血した血中 の特定物質の濃度を測定することでヒトの体内時刻を簡単に測定することが可能になりました。

本研究では、健康な3人の被験者から2時間おきに採取した血液を用いて、24時間周期で量が変化する代謝産物(振動物質)を液体クロマトグラフィー・質量分析計(LC/MS)を用いたメタボローム解析法で同定し、「分子時刻表」を作成しました。次に、強制的に体内時刻を ずらした別の6人の被験者の血液を採取して代謝産物量を測定し、この時刻表に照らし合わせて体内時刻を推定したところ、わずか2回分の血中振動物質量の解析で従来法で調べた体内時刻とほぼ同じ時刻を推定できることが確認できました。

この方法を利用すれば、ヒトの体内時計を簡単に診断することができ、例えば睡眠・覚醒リズム障害(概日リズム睡眠障害)や夜勤による不眠、冬季うつ病など体内時計の調節障害によるさまざまな疾患の診断だけでなく、リズム障害に関わる治療薬の開発(評価)につながること が期待できます。また、適切な時間に服薬することで最大の治療効果を得るという「時間治療」でも、体内時刻の個人差を調べる診断方法としての利用が期待で きます。

より詳細な研究内容の紹介は理化学研究所のホームページに掲載してあります。
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2012/120828/detail.html

精神保健研究所 精神生理研究部
三島 和夫

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